第95回箱根駅伝(2019年1月2~3日)を間近に控えて、東海大学駅伝チームは最後の調整に励んでいます。今年は出雲駅伝3位、全日本大学駅伝2位と着実に結果を残してきました。締めくくりの箱根駅伝で悲願達成にチャレンジします。
東海大学陸上競技部長距離ブロックはワットバイクを積極的に練習に取り入れています。どのように使用してどのような成果を得ているのかについて、東海大学体育学部准教授で陸上競技部・長距離駅伝コーチを務める、西出仁明氏に話を伺いました。
-ワットバイクを導入してから2年半が経過しました。現在、どのような目的で使用されていますか?
「主な目的として、一つはクロストレーニングです。故障が多い選手にはランニングの一部をワットバイクに代替させています。もう一つは故障して走れない選手に負荷をかけるために使っています。」
-ランニングの代替ということについて少し説明をして頂けますでしょうか?
「ランニング(ラン)は着地衝撃を伴い脚への負担が大きい運動です。高強度トレーニングになると故障リスクが高まります。その点、バイクは負担が少ない。特に膝下の負担が軽減されます。また、バイクの方がランよりも高い心肺負荷をかけることができます。最大心拍数近くまで上げやすいのはバイクです。選手たちもバイクトレーニングの方がきついと言っています。実際にバイクの後は立てなくなる選手もいます。これはランの後ではあまり見られないことです。このように故障リスクを低減しながら高い強度を担保できるという利点がワットバイクにはあります。」
-バイクでそこまで追い込めているということですね。
「見えているというのが大きいと思います。選手はワットバイクを漕ぎながら、心拍数、回転数といった情報をリアルタイムで見ています。これが追い込める一つの要因ではないかと思います。高強度セッションの後半は心拍数が200近くまで上がっていきますから。これはランではなかなかできない強度です。」
-ランナーですから当然、走るトレーニングが軸になると思いますが、バイクトレーニングで効率よく強化できる部分もあるということですね。
「抽象的ですが、走れないとつけられない筋力を追い求めすぎると故障リスクが高まると感じています。何よりも大事なのはトレーニングを継続していくことです。それが強くなる秘訣でしょう。心肺面はバイクが有効だと割り切って、その強化の一定部分をバイクで行うという考え方はリスク回避の観点からも合理的だと思っています。」
-具体的にはどのようなタイミングでバイクトレーニングを入れているのでしょうか?
「週2回のポイント練習の際に、故障リスクから走らない方がよいと判断された選手はそのときにバイクに乗ります。バイクトレーニングでは常に心拍モニターを着用して負荷コントロールを行っています。また、すべてのセッションでデータを取っていますので過去のセッションと比較していくこともできます。」
-バイクトレーニングの内容はどのようなものですか?
「主に3つのパターンがあります。
① 70秒 × 10~15 セット (レスト 60秒)
Level(Trainer) 2~4
回転数 110~120rpm
これはランの300/400m × 10~15本の代替と考えています。
② 3分 × 5~10 セット (レスト 90~120秒)
Level (Trainer) 2~4
回転数 110rpm
これはランの1000m × 5~10本の代替と考えています。
③ 15分 × 3 セット
回転数 100rpm 」
-これらのプロトコルをどのようにして導いたのでしょうか?
「試行錯誤の末に出来上がったものですが、ベースは心拍数です。心拍数を見ながらプロトコルを作ってきました。3分は最大心拍数の95%、15分は90%といったように心拍数で強度管理をしています。」
-ここまでトレーニングの強度などについてお聞きしてきました。動作についてもお聞きしたいのですが、Polar View(ペダリンググラフ)は活用されていますか?
「選手たちは理解したうえでモニターのPolar Viewを常に見ています。8の字から良い形にしようと意識しています。股関節の動きをイメージしやすいですね。ランによい影響を与えていることは間違いないと思います。ただ成果が定量化できるものではないので、どうしても感覚的な話になってしまうのですが、脚が流れにくくなる、という感じです。これにより選手たちはランニング動作が解ってきたように見ています。」
-故障者については他に特別なメニューなどがありますか?
「それは色々とやっています。42km、21kmといった分かりやすい距離も。こういうのは目安になり目標としやすいから、やる気にもつながります。フィットネス維持のために有効ですね。」
-ワットバイクトレーニングで最近、新たに取り組んでいることなどはありますか?
「レベル2(Trainer)の軽い負荷で脚を速く廻すトレーニングです。まだ試行錯誤の段階ですが、トラックシーズンに少し試していました。ランの後に、10~15秒を3本、とにかく速く廻すのです。実は、館澤亨次(東海大3年、日本選手権1500m 2連覇)が今年、アジア大会で世界の壁に阻まれたときに、レース終盤で切り換えの素早さが足りないと感じました。ピッチの切り替え、そして高ピッチの持続ということですが、ではこれをどうやって改善するかを考えたときに陸上の動作でアプローチしていくのは難しいと思いました。ここでの課題は引き戻し動作なのですが、走りで速く廻すには限度がある。しかし、これこそワットバイクで出来ることではないかと思っています。」
-ペダリングはランニングより動作速度、サイクルが速いですし、それは楽しみな取り組みですね。神経系のところでもありますね。
「そうですね。バイクでとにかく短時間、速く動く。速く廻せる感覚を身につけてラストスパートに結び付けたいです。トラックの方では、これからここを突き詰めていきたいですね。」
取材協力、写真提供:東海大学陸上競技部
東海大学スポーツ教育センター
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