5月30日に行った3分間テスト結果を分析してプログラムの作成作業に入りました。北村綾香選手はインカレまでに合計48回のセッションを行いましたが、まずは7月中旬に予定されていた、部内メンバー選考レースまでのプログラム作りに着手しました。当分の間、メインのトレーニングは週に5日、ワットバイクで行うこととして、水上練習は早朝にシングルスカルで短い距離を非常に軽い負荷で行うことにしました。
ワットバイクトレーニングの負荷(ワット)は回転数(rpm)とレベル(空気抵抗ギア)で決まります。従い、メニューを作るという作業は目的に沿った、回転数とレベル、そして時間、セット数を考えるということです。北村選手については、ボート選手に必要な有酸素ベースの向上に加えてレッグスピードの向上と下肢の動作改善を狙ったプログラム作りをしました。トレーニングはすべてWattbike Trainer で行いました。
全てのセッションでのウオーミングアップとしては下記20分、10分のいずれかを行いました。(レベル 3 or 4)
20分ワークアウト | 10分ワークアウト | ||||
5分 | 90 | 3分 | 90 | ||
2分 | 95 | 2分 | 95 | ||
2分 | 100 | 1分30秒 | 100 | ||
2分 | 105 | 1分30秒 | 105 | ||
1分30秒 | 110 | 1分 | 110 | ||
30秒 | 125 | 1分 | 90 | ||
2分 | 90 | ||||
6秒 | Max | ||||
1分 | 90 | ||||
6秒 | Max | ||||
1分 | 90 | ||||
6秒 | Max | ||||
2分42秒 | 90 |
メインメニューとして、最初の10セッションは次のようなワークアウトをレベル4~5で徐々にトータルの仕事量を増やす形で行いました。
【パターン1 例】
3 × 8~10分 90~95rpm
2 × 15~18分 90~95rpm
【パターン2 例】
10 × 20秒on/40秒off on 130rpm/off 90rpm
10 × 15秒on/45秒off on 140rpm/off 90rpm
初回セッションの生理的反応としては心拍数が当方のターゲット値より高く出ていることが少し気になりました。暫くトレーニングから離れていたためか、北村選手固有のものなのかは判りませんでした。しかし、心拍数は回を重ねるごとに変化が見られて6回目のセッションでは明らかな改善が見られ、トレーニングへの適応が始まっていることが確認できました。
ペダリング動作については初回セッションで、股関節、ハムストリングスへの意識を徹底するように指導しました。これは水上でのローイング動作に直接的によい影響をもたらすと考えました。北村選手のペダリング動作は回を重ねるごとによくなっていきました。また、20分アップ中の6秒maxの内容からレッグスピード向上の兆しが見えてきました。これもローイング動作でのパワー発揮に有効な要素です。
北村選手はコミュニケーション能力と理解力が極めて高い選手です。更に復帰への高いモチベーションもあり、プログラムは上々の滑り出しを見せました。一方で当方は疲労度のチェックには細心の注意を払いました。レストはトレーニングと同等に大事であることを本人によく伝えました。
11回目以降のセッションは上記10セッションメニューの回転数、時間、セット数をアレンジして仕事量を徐々にアップさせる形で進めました。10秒オン/50秒オフでは回転数を150rpmまで上げました。これはローイング動作ではできにくい速い動きでクロストレーニングの効用と考えています。スタートスプリントをイメージして行うようにアドバイスしました。各セッションのExpert Softwareファイルはトレーニング直後に北村選手から送られてきましたが、有酸素ベースの向上に確信が持てるようになりました。またプログラム開始から3週間後の6月21日には北村選手から「乗艇トレーニングですが、ローイング動作中の腰部の重さがなくなり、気持ちよく漕げるようになってきました。」という報告がありました。
万事順調かと思っていたこの頃、少し悩ましい問題が出てきました。当初7月中旬に予定されていた部内メンバー選考レースが不可避の事情から7月1~2日に変更となりました。
選考レースはシングルスカルによる一定距離のタイムトライアルで行います。現在の早稲田大学は非常に選手層が厚いチームで力のある選手が多くいます。その中で8月下旬に行われるインカレのメンバーに入るためには、そこで高いパフォーマンスを出す必要があります。プログラム作成時の計画からは、その時期が約2週間、前倒しになりました。
これに伴いプログラムの作り替えを検討しましたが、3週間のトレーニング進捗を再度レビューした結果、その必要はないと判断し、北村選手には「フィジカル的には明日行っても対応できるのでローイングと腰の状態に問題がなければ大丈夫」と話しました。
水上でのローイングについては、距離と負荷を極端に抑えてスキル向上にフォーカスした練習を行ってきましたが、6月24日は「朝の練習でコーチからキャッチ周りが怪我前よりも上手くなったと褒められました。」と本人から報告がありました。
選考レースの週に入り進捗を詳細にチェックしましたが、有酸素能力は確実に向上が見られ、ペダリング技術、安定性を含めてトレーニング効果があることは間違いないと判断しました。そして、レース直前のセッションでは、アップでの6秒間において女子プロ競輪選手同等のピークパワーを記録しました。北村選手は元々、持久力型でスプリント力は高くありませんでしたが、この部分についても著しい進化を見せたことは印象的でした。データから疲労している感じも見えなかったので北村選手には、レースは積極的に入って大丈夫だと話しました。北村選手は「バイクのトレーニングで培ったスピードを100%水上で出せるよう、残りの練習でしっかり調整していきます。」という力強い言葉を残して選考レースの地へ向かいました。
選考レースが行われた7月2日夜、北村選手から「選考レースでは腰痛の心配もなく、自分のベストパフォーマンスを出し切れました。」と連絡がありました。そして見事に8月31日~9月3日に行われる全日本大学選手権(インカレ)のメンバーに選出されました。
写真提供、記事協力:早稲田大学漕艇部
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