ガールズケイリンは新たな女子プロスポーツの創造を目指して2012年にスタートしました。その後、選手と関係者の努力が相まってプロスポーツとして安定した基盤を作りました。
また、生活、環境面から競技スポーツの継続を断念せざるを得ない女子アスリートに対して夢、希望、そして職業そのものを提供するという極めて有意な役割を果たしています。
ガールズケイリン選手でありながら、2016年リオ・パラリンピックでは視覚障害をもつ鹿沼友里恵選手のタンデムパイロットとして銀メダル獲得という快挙を成し遂げた、田中まい選手にお話を聞きました。
― 幼少期からのスポーツ経験、アスリートとしての経歴を教えてください。
3才から中学生まで水泳、中学ではバレーボールをしていました。高校から自転車競技を始め、その後競技を続けるため大学に進学をし、全日本学生選手権大会3km個人追い抜き、ロードタイムトライアル、ロードレースで優勝することができ、2011年にはユニバーシアードに出場して初めて海外のレースを経験しました。
2013年5月にガールズケイリン選手としてプロデビューし、その後パラサイクリングに携わるようになりました。視覚障害をもつ鹿沼由理恵選手のタンデムパイロットとしてリオパラリンピックに出場して、ロードタイムトライアルで銀メダルを獲得しました。
― どうしてガールズケイリン選手になろうと思ったのですか?
一番は学生時代に培ってきたことを最大限に活かせる職業だと思ったからです。
― その当時、ガールズケイリンに対してどのようなイメージを持っていましたか?
私が競輪学校を受験した時は、まだ1期生もデビューしていなかったため、どうなっていくのか分からず不安な部分もありました。でも、新しいステージを作ってくださったことが何よりも嬉しくて、楽しみでした。
― 競輪学校入学のためにどのような準備をしましたか?
試験までに試験ギアに慣れるように取り組みました。一次の技能試験で使用するギア比は49×15に指定されていたので、普段の練習を試験のギアに変えて練習を始めました。二次試験前は苦手な小論文と面接の練習はみっちりしました。
― 競輪学校の生活、訓練は厳しいと聞きますが実際に経験してどうでしたか?
私は慣れるまでにとても苦労しました。マイペースな性格なので、入学したばかりはちょっとしたミスでよく教官の先生に怒られていた覚えがあります。生活時間が細かく決められていて毎日毎日気を休める暇がなく慣れるまで苦痛でした。練習環境や食事面は整っているので、不満に思うことはなかったです。幸い同期は本当にいい人ばかりで、皆が居たから辛い時も厳しい訓練も一緒に乗りきれました。
― 競輪学校時代のことで、特に思い出に残っていることはなんですか?
正直ここでは言えない思い出がいっぱいあります(笑) 訓練での思い出は、唯一競輪学校の外で行った耐久訓練がとても楽しかったです。山道はとてもキツかったのですが、皆とゴールした時の達成感は最高でした。
― デビューしてみてガールズケイリンの世界は想像と比べてどうでしたか?
デビュー戦は、競輪学校での訓練との違いに少し圧倒されました。これが勝負の世界なのか…と一戦目にして感じました。それとオフシーズンがないので自分で体調管理や計画する難しさもデビューしてから常に感じています。
― 競輪は一年中行われていてシーズンオフがありませんが、1年間の流れのなかでトレーニングや生活に変化をつけているのでしょうか?
特に流れを変えたりはしていないのですが、レース日程が昼間のレース、夜のレース、夜中のレースがあり、体調管理など難しくて 試行錯誤して自分で考えながら過ごしています。
― 1年間に大体、何レース走りますか?
大体80~90走レースを走っています。
― レースとレースの間の期間はどのように過ごしていますか?
競走と競走の間が短いときでも、重い負荷をかけたトレーニングをいれて、大体レース前日は本数を減らしたり、軽いギアでトレーニングして調整することが多いです。
― 日頃のトレーニングはどのようなことをどこで行っていますか?
街道ではロードレーサーを使って登り坂や平坦でもがいたり、パワーメーターを見ながら回転をキープするメニューなどを主にしています。スピードが他の選手よりも劣っているので、バンクに入った時は男子選手にお願いして後ろにつかせてもらいもがいてます。ウエイトトレーニングも始めたのですが、頻度をもっと増やしていきたいなと思っています。
― それぞれのトレーニングは指導者や他の選手と一緒に行っているのですか?
バンクでは、バンクにくる選手と一緒にもがいたり、後ろにつかせてもらっています。私は師匠が引退しているので、先輩方にアドバイスをしてもらう事もあります。ジムではトレーナーさんに体の動作指導うけながら、やっています。
― 日々違うとは思いますが、通常のトレーニングを行う典型的な一日の流れを教えて頂けますか?
大体、次のような流れです。
6時
起床
↓
7時半~9時半
体ほぐし&アップ、ウエイト
↓
9時半~12時半
バンク練習
↓
昼食&休憩
↓
16時
ジム
↓
19時
家事、ご飯、風呂、就寝
― 食事について、日々の食生活で気にかけているようなことはありますか?
今はたんぱく質を多くとるようにしています。
― ガールズケイリン選手という職業をどのように感じていますか。
命をかけて走る覚悟が必要だと感じています。私の師匠はレース中の落車で寝たきりになってしまいました。厳しい勝負の世界だと知ってはいながらも、正直落車は怖いです。だから悔いがないように一戦一戦全力尽くして一生懸命走っています。
― 他の女子プロスポーツ選手と比べてガールズケイリンの選手というのはどうでしょうか。
他のプロスポーツ選手の方で親しいかたがいないので詳しい話を聞いたことがないのですが、スポーツ選手は年間契約等で収入をもらうことと思いますが、ガールズケイリン選手は自分のレース成績で賞金が変わります。選手になれれば自分の頑張り次第で高収入を得られるチャンスがあるという夢があり、やりがいのあるプロスポーツだと思います!
― 田中さんはガールズケイリン2期生としてデビューしましたが、その後、5年間でガールズケイリンはどのように進化、変化してきましたか?選手目線で感じることがあれば教えてください。
沢山のかたの協力があり、女子競輪が復活し、女子のプロのみちを作ってくれたことは嬉しかったです。また、デビューした頃は自分たちの走り次第でガールズケイリンを終了させられてしまうかもしれないというプレッシャーも抱えながら過ごしていたので、今こうして選手も100人を越えて女子選手の環境も理解してもらえる場が増えてきたことに、本当に嬉しく思います。まだまだこれから選手も増えたらまた変化していくことだと思います。年々人数も力の強い選手も増えたことでレース展開が面白くなっていると思います。
― プロスポーツ選手になりたいと考えている若いアスリートは大勢います。ガールズケイリンの魅力を伝えるとしたらどのようなことを言いたいですか?
可能性は無限大にあります。夢があるプロスポーツだと思います。少しでも興味のあるかたはぜひ、挑戦してみてほしいです。
取材協力、写真提供:公益財団法人 JKA
CONTACT